台風観測(番外編)

『鹿児島旅譚』

振り返ると、本土側の山の上に立った三基の風車が随分とご機嫌にまわっていた。大型の台風が近づいている―それこそ私が鹿児島に来た理由なのだが―ことを今さらながらに思い出した。大量の乗用車と人を飲み込んだ寸胴の船は、徐々に強くなる風をものともせず、白波の立つ海面を蹴散らして進んでゆく。

デッキから見上げた桜島は、山というよりも崖といった風情であった。荒々しく削れた山肌が森の合間からところどころ顔を出し、こちらを見下ろしている。湾内を睥睨するように屹立するその山は、しかし同時に鷹揚とした安心感をも与える。背景の空は既に秋めいて、海よりもなお薄い青が広がっている。モノクロに脱色された日々の景色に、少しばかりの色彩が戻った心地だった。

 

飽きたので誰か続き書いてください。

最初に断っておくと、別に観光に行ったわけではないです。兼ねてより計画されていた台風観測のリザーブ要員として鹿児島に向かったものの、幸いと言うべきか残念と言うべきか、補欠の出番がないまま終わってしまったので、空いた時間で鹿児島をちょっと巡っただけです。

雨予報だったので屋内の観光計画、もとい観測計画を立てていたのですが、見上げた空はピーカン晴れ。折角なので市街地を通り越して港へ足を運びました。目的地は勿論……

今なお大規模噴火を繰り返している活火山、桜島。この日は運よく火山灰が降ることも、噴煙が昇ることもありませんでした。桜「島」といいつつ、実は本州と陸路で一部繋がっており、フェリーで行っても15分程度の距離しかありません。対岸の建築物が見える程度の近さです。

 

港からすぐ近くには月讀神社なる景勝地があり、高台から海越しの本土を一望できました。名古屋ではすっかりバテてしまった蝉も、桜島ではまだ現役のようで、ツクツクボーシ君が元気に鳴いていました。平日の上台風接近中と言うこともあり、人がまったくおらず、快適なことこの上なし。

境内には高浜虚子の句碑があり、「溶岩に 秋風の吹きわたりけり」という句が刻まれていました。この溶岩はかつて噴火で流れ出たものであり、この下には村がいくつも埋まっているが、今は秋風がただ静かに吹くのみである、と解説されていましたが、生憎と風流心が欠けた学生なので、地層のことが気になってしょうがなかったです。噴火を繰り返しているならさぞかし見ごたえのある堆積層になっているんだろうな。門外漢ですけどね。

 

標高約400 m地点までは車で上ることができます。平地の神社や温泉を一通り巡った後でバスに乗って展望所へ。夕方に差し掛かり、風が随分と強くなってきましたが、フェリーはまだ運航しているようなので観光続行。いろは坂も真っ青な急カーブの山道を超えると、湯之平展望所に着きます。広角カメラしか備えていないスマホ写真なので迫力が伝わりづらいですが、ここまで来るとかなりの威圧感があります。今ここで大噴火したら桜島に骨を埋める(物理)ことになるなと思いながら、山と海を交互に眺めていました。たまにはこういうのも悪くないですね。

下山した頃には厚い雲が随分と幅を利かせていたので、孤立しないうちに本土へと退散。しろくまを食べながら帰路に着きました。

次は観測機に乗れるといいなぁと思っていたら、なんと間髪いれず台風25号発生。そう矢継ぎ早に来なくても……と思わないでもないですが、観測機飛ばないかなとひそかに期待しています。

P.C.

Post Script

桜島にも猫がいました。観光客がエサをホイホイあげるせいか、まったく人を怖がりません。一匹持ち帰って研究室に装備しようか逡巡しましたが、アレルギー持ちなので断念。